「不正なプログラムへのURLを書き込んだ少女が逮捕された件」を事実と法律を基に論じてみる。
昨日、「不正プログラム書き込み疑い補導」というニュースがエンジニア界隈を賑わせました。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kobe/20190304/2020003239.html
簡単に言えば、「無限にポップアップが開くサイトのURLをイタズラ目的で掲示板に書き込んだ13歳の女子中学生が補導された」というニュースなのですが。
これに対してエンジニア界隈がちょっと盛り上がったのですよ。曰く、
「ちょっと困るな、レベルのイタズラサイトのURLを書き込んだだけで逮捕されるのか」
「Google Analytics(アクセス解析)のプログラムを仕込んでいる兵庫県警のサイトもアウトじゃないか」
みたいなことを言っているのですが。
ちゃんと言葉にして言いますが、私はこーいうことを言っている人たちを「なんて頭の悪い人たちなんだ。。」と思っています。
(2019/03/10/追記)
なんかエンジニアによって「逮捕されよう運動」みたいなのが出てきてるみたいですが、私はこれの参加者も完全に頭が悪いと思っています。「頭が悪いエンジニアが多いんだなあ」と思って見ています。詳しくは最後尾に追記します。
https://github.com/hamukazu/lets-get-arrested
(追記おわり)
私がまず上記のニュースサイトを見たときの行動って「詳しく調べる」でした。
上記のニュース記事には「何の法律違反で補導されたのか」ということすら書いていないので、正しい「事実」を集める必要があると考えたのですね。
その結果、「不正指令電磁的記録に関する罪」というものに引っかかっている、ということが分かりました。ざっくり説明すれば、
「正当な理由がないのに、コンピュータ使用者が意図していないような動きをさせるプログラムを作った人、もしくは広めた人は罪になりますよ。」
という法律です。
この法律を見たときに「正当な理由」とか「不正な指令」とか曖昧だなあ、とは思ったのですよ。
でも、そこを明確にするのはとても難しいし時代によっても激しく変わる可能性が高いので、多分裁判とかを通して判例を作っていって定義していこう、みたいな意図があるのかなあ、と思っています(多分)。
犯している罪がわかりました。大きな要素は2つ。
- コンピュータ使用者が意図していないような動きをさせるプログラムがないか
- 行為の理由およびプログラム自体が正当か
あとは補導された少女の行動と照らし合わせればいいだけですね。
まず、「1. コンピュータ使用者が意図していないような動きをさせるプログラムがないか」かどうかですが、これはアウトですね。だって「ポップアップが無限に出てくる」はコンピュータ使用者が意図していたとは言えないからです。
(もしURLを書き込んだ上で「このサイトはポップアップが無限に出てくるので気をつけてね」とか書いていれば、ここをクリアするのでセーフです。)
次に、「2. 行為の理由およびプログラム自体が正当か」なのですが、警察の発表によると「以前、自分が困ったことがあり、他の人がクリックすれば面白いと思った」と言っているようなのですよ。これは「正当じゃない」と判断しても仕方ないとは思います(これを「正当な理由」としてしまうと、住居侵入とかもアリになっちゃうので。。)
(この少女の発言が兵庫県警による脅しの結果だった、とかいう可能性はあるので、そーいう事実が今後出てくればひっくり返ります。)
さらに、このURLはただのイタズラサイトではなく、過去にトレンドマイクロ社という、ウィルスバスターを製作している会社から警告を受けているのですよ。なので、プログラム自体も「正当」とは言い難いです。
(追記: 2019/03/11)
法務省がこの罪状の正しい運用を目指して公開した文書がありました。その中で「不正な」に関する定義があったので記載。
また,プログラムによる指令が「不正な」ものに当たるか否かは, その機能を踏まえ,社会的に許容し得るものであるか否かという観点 から判断することとなる
http://www.moj.go.jp/content/000076666.pdf
つまるところ「社会的に許容しうるかどうか」というところなのですが、これも「トレンドマイクロ社が警告している」「本人も困った経験をしている」というところからアウト寄りだと判断できます。少なくともそーいう論理が成り立ちます。
(追記おわり)
(追記: 2019/03/11)
下記記事内に、兵庫県警からの発言が記載されていました。曰く、
「いたずらだったことは重々承知しているが、現行法では懲役、もしくは罰金刑になる犯罪」
「安易に行っている者への警鐘とインターネットモラルの向上を意図していた」
とのことなのですが、後者の発言が失敗だなあ、と思いました。
先述したように、不正かどうか、って法務省的には「社会的に許容しうるかどうか」なのですよ。
で、「インターネットモラルの向上を意図していた」ということは、「現状のインターネットモラルではコレが許容されていた」とも見れますよね。ということは、「社会的に許容されてんじゃん」という論理が成り立ってしまうのですよ。
もちろん、「インターネット社会と日本社会は別のモノだ」とすることはできるので、ギリギリのところで踏ん張っています。ただし、この発言は兵庫県警の立場をかなり悪くしてしまいました。
(追記おわり)
以上から、1も2もアウト寄りなので、「あぁ、これは警察が動く理由はあるな」と判断できるわけです。なぜなら、日本は法治国家であり、警察は「法律違反の疑いがある者=被疑者を捜査し、逮捕して検察に引き渡したり、補導センターに補導を委嘱したりする」という職務があるからです。
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h14zenbun/html/honpen/2-7-3.html
https://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hodouhogo_gaikyou/H28.pdf
(実際に罪かどうかを判断するのは検察や裁判所の役目であり、警察は「疑いがある人をそれらに持っていく」というのが、こーいった場合での役目です。)
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h14zenbun/html/figure/fg2-7-2.html
http://www.moj.go.jp/hogo1/soumu/hogo_hogo01.html
以上のことを調べた結果、「これはアウト寄りだわ。警察動く理由あるよね。」と判断しました。
これは主観ではなく、事実の寄せ集めなので、「誰が調べてもこの結果になる」のですよ。だから、私はこの問題に対してはすぐにみんな気づいて「あっ、なるほど、仕方ないかも」という流れになると思ったのですよ。
特にエンジニアという生き物は普段、「プログラム」という、「可哀想だろうが偉い人が書いていようが、間違っていれば絶対動かない」というモノと対峙している生き物なので、「事実を調べる」ということには慣れていると考えていたのですよ。
ところがぎっちょん。
数日経ってもまだ盛り上がっていまして。驚くことには、エンジニア界隈では割と名の通った、「優秀だと判断されてきた人たち」が騒いでいるのですよ。
↑こんな感じで。(この人はWikipediaにも名前が載っているほどの人です。)
エンジニア界隈がこの事件を否定している理由は主に2つ。「意図しないプログラムだったらなんでもダメなのかよ」「正当な理由ってなんだよ」です。
意図しないプログラムだったらなんでもダメなのかよ
「ポップアップ広告埋め込みとかGoogle Analyticsもだめじゃん。」とか言っている人がいるのですが、正直、頭が悪い発言だなあ、と思っています。
今回、補導の対象となった行為は「過去に自分が迷惑を被ったURLをイタズラ目的掲示板に貼った」なのであり、「無限ポップアップ」それ自体が罰せられたわけではないのですよ。なので、
昔、Coinhiveというプログラムを仕込んで収益を上げていたWebサイトが摘発されて有罪判決が出た時も同様の議論が溢れました。
Coinhiveの件で騒ぐのは正解です。なぜなら、「Coinhiveというプログラムを作動させて収益を上げようと思ったから」という理由は、ポップアップ広告やYouTube広告などと全く同じ論理だからです。これがダメなら、広告収入を得ている多くのサイトが「駄目」になります。
Coinhiveが「不正な指令」かどうかも相当怪しいところです。Coinhiveは具体的には「Web閲覧中のパソコンパワーを少しだけ借りて電子マネーのお金稼ぎをする」であり、「パソコンの処理能力を少し借りる」以外の悪影響はないからです。「これがダメならポップアップ広告もダメじゃないのか」という論理は成立します。
(余談ですが、「作動し続ける」というところがCoinhiveと他の広告の違いなのではないかなあ、と思います。下記のブログでも挙げられていますが。)
ところが今回は、「昔、自分が困ったURLを掲示板に貼った」なのですよ。そんな難しい話じゃないのです。なので「ポップアップ広告もダメじゃないのか」といった類の話とは全く結びつかないのですよ。
なので、今回の件と「ポップアップ広告もダメじゃないのか」とか「兵庫県警でもGoogle Analytics(アクセス解析)が動いてるじゃないか」とかの言論は論理的に破綻しているので、頭が悪い発言です。
正当な理由ってなんだよ
この記述が曖昧なのは事実ですが、「イタズラ」は、軽犯罪法で悪質な例として挙げられているので、「軽犯罪法で禁止されているんだから正当な理由になり得ない」という論理は成り立ってしまいます。
また、「正当な理由なく」というような表現は「住居不法侵入」に関する法律でも使われているので、「イタズラで」が正当な理由になってしまうと、「イタズラしたくて家に侵入しました」がOKな世界になりかねないので、やっぱり「イタズラは正当な理由ではない」が正解だと思います。
例えばこの少女が機転を利かして、「私は過去にこのURLをクリックしたことで【注意しなきゃいけない】と感じた。これ自体はほぼ無害なので、これを広めることで皆の注意喚起になると思った」とか言ったとしたら、それは「正当な理由」になっちゃう気がします。
今回は「いたずらで」「以前、困ったので」と言ったっぽいので、それはダメだよなあ、と思います。少なくとも「疑いがある」と判断されても文句言えないので、捜査・補導も仕方ないです。
先述したように、「正当な理由」なんて時代によって移り変わるので、あえて曖昧な状態にして検察や裁判所のほうで判断してもらうようにしてるんじゃないかなあ(議事録にもそーいう感じの記載があったはず)。
私、コンピュータプログラムと相対する人はもう少し賢い人たちが多いと思っていたのですよ。
先述しましたが、プログラムって、「書いてある事実通りにしか動かない」ので、どれだけ偉い人が書いたプログラムでも、どれだけ可哀想な状況で書かれたプログラムでも、「間違っていたら動かない」し、「合っていたら動く」のですよ。書いてあるプログラムが全て。
なので、プログラムと相対する人は日々、「なんで動かないんだろう→あっ、ここが間違っているからだ」とか、「なんでこう動くんだろう→あっ、ここがこーなっているからだ」とかの連続なのです。
で、そういった経験が豊富にあるので「事実をさかのぼる」という能力に長けていると思っていたのですよ。
ところが今回の騒動を見てると、日々プログラムと相対している人でも、事実に基づかない間違った認識をして愚痴ったり兵庫警察を叩いたりしているので、案外「プログラミングしてること」だけじゃ頭が良い指標にはならないんだなあ、と思っています。
仮説ですが、プログラムと相対している人でも、「プログラムが綺麗か」とか「設計が正しいか」とかに強くこだわる人は、多分、主観の世界の人物なのかもなあ、と思っています。
(2019/03/10追記)
なんか「逮捕されよう運動」みたいなのがエンジニアたちによって行われているようなのですが。「アラートの無限ループプログラムを作ったり広めたりして逮捕されよう」とのことなのですが。
https://github.com/hamukazu/lets-get-arrested
散々上述したように、ただ「アラートの無限ループプログラムだから」という理由で補導されるわけではないので、上述のページ内にあるプログラムを複製しただけでは全く逮捕されません。ちょっと調べて考えれば誰でもわかるので、それがわからないなら、頭が悪いです。
また、「補導=犯罪」と誤認もしているので、やっぱり頭が悪いです。検察や裁判所などで判断が降ってはじめて罪になるので、警察にはまだ「動かない理由」が成立する段階です。これも私はすぐに調べられたので、調べればすぐにわかることがわからないのは頭が悪いです。
こーいう「すぐに行動に動く人」っていうのは私はむしろ好きなんですが、頭が悪い人たちはあまり好きじゃないので「あぁ、頭が悪いエンジニアって多かったんだなあ」とげんなりしています。
(2019/03/11追記)
「安易に行っている者への警鐘とインターネットモラルの向上を意図していた」と兵庫県警が発表したのが事実なら、それに反する行動ということで「逮捕されよう運動」にちょっぴり箔がつきました。
ただ、この運動のREADMEは、「このforループが作動するページを複製したら逮捕される」という論理でしかなく、事実とは違うのでやっぱり「頭が悪い」と思います。(「 URL を SNS で共有するとより効果的」とありますが、それは必須条件です。)