イオリンの何か

断捨離

ある日青年は本屋さんで一冊の本を手に取った
その本は青年にこう言った
「モノを捨てろ」「最小限の物だけで生きろ」
「そうすればきっと肩の荷もおりるはずさ」と
青年は「その通りだ」と思った

その日から青年はいろんなものを捨てた
物入れの奥の洋服たち
本棚で眠っている本や雑誌
埃を被ったお皿やコップ
友達がくれた誕生日プレゼントや
彼女に渡せなかった手紙たちも
いつしか青年の持ち物は
キャリーケースに収まるようになった

それからの青年はといえば
まるで身体が軽くなったかのように
気が向くままにあちらやこちらへ
青年は思った
「これが自由なんだ」と

ある日青年は昔の妻と娘を見かけた
彼女らには新しい父がいた
娘には新しい弟と妹がいた
けれども青年は傷つかなかった
青年の大切なものは全てキャリーケースの中にあった
青年は思った
「これが自由なんだ」と

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